もう少しで『デジモンテイマーズ』20周年も締めくくり! この1年はたくさんのコラボイベントや商品が展開されました。そこで使用されたビジュアルですが、熱量を持ってディレクションをしている担当者さんがいます。今回はそのイラストのご担当者さんに、アニメプロデューサー木下さんとともに、直撃インタビューしてきました!
塚原麻子さん:東映アニメーション株式会社 デザインルーム所属
木下陽介さん:東映アニメーション株式会社 アニメプロデューサー
デジモンパートナーズスタッフ:デジモン好き30代
メーカーさんと作画担当さんの橋渡し
DP:塚原さんは普段どのようなお仕事をされているのでしょうか?
塚原:私は現在放送中の『デジモンゴーストゲーム』 や20周年の『デジモンテイマーズ』など、「デジモン」シリーズ全般の商品やコラボビジュアルなどの、作画回りのチェックや進行管理を行っています。メーカーさんや社内からイラストの作成依頼を頂いたものに対して、描く内容がそのキャラクターらしい内容か、作品性を損なわないかなどの確認をし、作画担当の方に頼んでイラストを完成させるまでの管理ですね。イラストの依頼をしたら、ラフができた段階と、彩色済みが完成したタイミングでチェックをして、問題なければメーカーさんに納品します。
DP:例えば、これから新しい劇場版が始まるときは、塚原さんにイラストの依頼をすることになるのでしょうか?
木下:そうですね。
DP:同じ「デジモン」なら、映画のキービジュアルと商品のイラストで、同じ人が描いていると思っていました。
木下:映画のキービジュアルに関しては、映画本編に直接関わることなので、基本的には作画監督やキャラクターデザイン担当が作成します。うちのデザインルームの方には、海外で展開するための素材や劇場物販、コラボビジュアルなどの描き下ろしを作ってもらっています。描く方が複数に分かれるなかでも、中鶴さんのキャラクターデザインに寄せて描いてもらう必要があり、塚原さんはそのチェックという大変な部分を担当してもらっています。塚原さんの調整のおかげで、各キャラクターがすごく可愛く仕上がっています。
DP:例えば、「ここをこうしたら中鶴さんの絵にもっと似る」みたいなディレクションもされているのでしょうか?
塚原:そうですね。バランスが難しくて、目の位置をちょこっと変えたりとか、輪郭をシュッとさせたりなど、修正をお願いすることもあります。描いていただく方々は基本的にお上手なので、大きく調整をすることはないのですが、「こうしたらより似せられる」と思うところは、コメントを入れています。
DP:それは一つの特殊技術かなと思うのですが、美術系の学校出身なのでしょうか?
塚原:いえ、まったく違うんです(笑)。なので、素人なりに、デザインルームに所属する美術系出身の方にも意見を伺いつつ、できる限りでやっています。
考えられるそのキャラの一番良い表情で
DP:木下さんも「デジフェス2021」のビジュアルを作る際は、塚原さんに頼んだのでしょうか?
木下:「デジフェス」の話で言えば、今回は横須賀が会場だったので、「横須賀らしい服装ってありかな? 」とか、「登壇が何名なので、このキャラまで入れたい」などの内容を塚原さんと打ち合わせをして、作成していただきました。
DP:依頼内容が作品とマッチしているかどうかをチェックするのは、作品に対して造詣が深くないとできない仕事ですね。
塚原:そうですね。子どもの頃から「デジモン」は好きで見ていましたが、特に『デジモンテイマーズ』は周年が始まるに際して、一から見直しました。依頼内容に対して、「この場面だったら、このキャラはどんなポーズでどんな表情をするか」などのイメージを考えながら、取り組んでいます。
DP:その内容やイメージを作画担当に伝えて作業してもらうのも、大変ではないでしょうか?
塚原:文字だけですと伝えるのが難しいのですが、私の場合は自分でイメージの絵を描いて依頼をするので、あまり齟齬は起きないです。 メーカーさんからも具体的なイメージをイラストで頂くことがあるので、問題ないときはそのままお渡しして作業していただくパターンもあります。
DP:子どもの頃から好きな作品に「仕事として関わる」ということは、どのようなお気持ちでしょうか?
塚原:やはり、偏ってはいけない、という気持ちでやっています。私はレオモンやテリアモンが特に好きなのですが、どのキャラクターもそれぞれ魅力的なので、全キャラクターそれぞれの良さを考えつつ、私が考えうる一番いい表情にしようという気持ちで臨んでいます。好きだからこそ「こうしたい」という気持ちが出すぎないように気をつけて、作品の世界観やキャラ同士の距離感、個性がでるポーズや配置を考えて、ファンの方たちに喜んでもらえるように仕事をしています。
こだわり抜いたコラボビジュアルの数々
木下:塚原さん的に、あえて選ぶとしたら渾身の一作はどれですか?
塚原:やはり「デジフェス2021」のビジュアルでしょうか。キャラの衣装やポーズから全体の構図まで、ベースから描かせてもらえたので、一番思い出深いです。メーカーさんからのご依頼は 「こういう絵を作って欲しい」という具体的な希望をもらって進行するので、その場合は「より良くする」という形でお手伝いをするので、ここまで深くは関われないんです。
DP:どのようなこだわりが込められているのでしょうか?
塚原: 当初の予定だとレオモンは入っていなかったんです。他のメインキャラがパートナーと一緒に並んでいる中で、樹莉もいるならレオモンと並んでほしいなと思い、追加させていただきました。
木下:「寂しいですよね」と言われ、「確かに!」と思ってOKしました。
DP:二人並んでいるのを見たときは、僕も嬉しくなりました。この並びは塚原さんのご提案だったんですね。
塚原:私から、ちょっとワガママを言わせていただきました。留姫の服装も普段のパンツルックから比べて、珍しいワンピース姿になっています。これは、せっかく女の子2人なので、樹莉と近い服装にしてあげたいと思いおそろいにしたんです。
木下:どのイラストでもそうですが、「デジフェス」のイラストは特に、留姫に注意を向けている印象があります。
塚原:そうですね。 留姫は自分のファッションにもこだわりがあると思うのですが、でも樹莉が一緒に着ようといえば着てくれる子だと思って。とはいえ、ポーズを取るのは照れるというか不本意な気持ちになる。今回は樹莉が一緒に着ようと言って、お母さんの後押しもあって着ている、みたいなイメージで描いていただきました。この恥じらった表情も、描き下ろしイラストはいつも笑顔になりがちなので、たまに違う表情を見せてもらいたいと思い、この顔になっています。
木下:この表情ひとつで、だいぶイラストのなかにストーリーが見えてきて、いいなぁと思います。いつもと違う服装で浮かべる表情から、裏で繰り広げられたストーリーを想像するのも、描き下ろしイラストがある施策ならではだと思いました。あと、このイラストは、山木さんでだいぶ盛り上がりましたね。
塚原:そうですね(笑)。山木さん自体、描き下ろしイラストがほぼないのと、セーラー服を着ているというところで、「セーラー服でよかったかな、白ズボンでよかったかな」といろいろ悩んでいました。ですが、ファンの方たちも概ね好意的に受け取ってくれて、グッズも買い揃えてくれている人もいたので、すごく嬉しかったです。山木さんは一年を通して、このイラストだけだったので、描けてよかったです。
DP:このイラストも華やかで楽しそうなイメージです。
塚原:ナタリーストアさんからは、イラスト付きで依頼をいただきましたので、ほぼほぼそのまま進行しました。ですが頂いたものだと、クルモンはおとなしめ、留姫がはしゃいでいて、レナモンがそれを見守っているポーズでした。キャラの関係性的に、留姫はパレードを楽しむとはいえそこまではしゃがないかなと思い、降ってくるお花を見上げている雰囲気にしました。レナモンは留姫を見守ってはいつつも、同じ方向を見てくれるキャラクターなので、同じ目線で上を見上げているポーズに。クルモンはもっとはしゃいでいる様子にするなど、ちょっと方向性を調整させていただきました。
DP:このコラボイラストも珍しい衣装を着ています。
塚原:これはマルイさんからの要望で描かせていただいた衣装です。デジモンたちに衣装を着せることが珍しいので、特にテリアモンのケープが可愛く仕上がりました。レナモンにしては浮かれた格好してくれていますよね(笑)。ギルモンも嬉しそうにお菓子を食べていて、大きなマフラーも似合っています。ギルモンは他シリーズの主人公の パートナーと比べても体が大きいので、他のキャラクターと絡ませるのが難しいんですよ。ですが、ギルモンのサイズ感だからこそできることもあるんです。
DP:それは、例えばどんなことでしょうか?
塚原:例えば、カラオケの鉄人さんのビジュアルですが、先方からは、ギルモンは大きく手を広げてジャンプさせたいという要望を頂いていました。アグモンだったら太一の横でジャンプしていてもバッチリ決まるのですが、ギルモンのサイズ感でそれをやってしまうとスペースをとってしまい、啓人とも離れてしまうので微妙なんです。なので、啓人の真似をしている感じで、ギルモンはよくわかっていないけどマイクを持って一緒に歌っている、2人が対になるような構図を提案しました。啓人とギルモンは身長が近いからこそ、難しい側面もありつつも、距離感の近い構図を描けるのが、他の主人公たちと違うところだと思っています。
木下:なるほど、確かに。
DP:こちらは、他のビジュアルに比べてキャラクター数が多いですね。
塚原:これはA3さんが描かれたGraffArtイラストをもとに、描いたビジュアルです。なので、A3さんが描かれたお祝いGraffArtの雰囲気をちゃんと反映できるように、楽しげに描かせていただきました。みんな浮かれた帽子をかぶっていて…「サイバードラモンがだいぶ丸くなった」という感想をお見かけして、「確かに」と思いました(笑)。好戦的なデジモンですが、プレゼント持つぐらいだったらやってくれるんじゃないかなと思ったんです。楽しげなサイバードラモンは、レアなんじゃないでしょうか(笑)。
木下:リョウ自体、コラボビジュアルに登場することが珍しいですもんね。
塚原:リョウや、健太、博和、小春もなかなか描き下ろしをしたりしないので、これは本当に勢揃いでパーティーという感じが出てよかったです。A3さんのGraffArtイラストも、すごく可愛らしいですよね。
DP:A3さんのGraffArtイラストに関しては、「監修」という形で関わられているのでしょうか?
塚原:そうですね。ですが、そんなに大きくは直しをしていないです。色の使い方や目の表現などの細かいところで、雰囲気はA3さんが作られたそのままです。ここまでガラッと衣装替えすることも珍しいですし、博和のサンバイザーを外した姿もレアだと思います。小春とロップモンがいるのがとても嬉しいですね。ロップモンとテリアモンを一緒に並べたいというファンの方も多く、A3さんのGraffArtも意識して対になるような描き方をされています。このGraffArtイラストがあって、東京キャラクターストリート展開のビジュアルができたので、ちゃんとした等身のリョウたちのビジュアルも描けてよかったです。
DP:愛を感じるイラストになっていますね。ちなみに、ストーリー進行的に「だいたいこの時点」というのが決まっているんでしょうか。
塚原:イラストごとに、おおよそのタイミングは考えています。啓人のディーアークや留姫の服のマークなど、どのタイミングの絵かで変わる要素には気を付けています。
世界観の広がりを楽しめる作品
DP:それでは最後に、『デジモンテイマーズ』の魅力を教えて下さい。
塚原:当時見ていても、今見返しても「シリアス」な話だなというのが印象的です。SFの要素や「命」の話など奥深いストーリーですよね。 登場するデュークモンやベルゼブモンなどのカッコよさ 、ギルモンやテリアモンなどのかわいさも 、 魅力的だと思います。大人になった今でも楽しめる作品ですし、今の子どもたちにも見てもらいたいです。20周年というククリはそろそろ終わってしまいますが、まだまだ見た人 の中の世界観を膨らませられる作品だと思うので、ぜひいろいろな楽しみ方をしてもらえばと思います。
木下:「DIGIMON CON」では、新しい描き下ろしイラストを使用したグッズも発表する予定です。そちらも楽しみにしていてください。
DP:本日はありがとうございました!