今年は『デジモンテイマーズ』が放送を開始してから20年を迎える節目の年。2021年8月1日に行われる「デジフェス2021」では『テイマーズ』キャスト陣の登壇が決定しました。そこで、『テイマーズ』プロデューサーの関弘美さんと、松田啓人(タカト)役の津村まことさんにインタビューを実施! 収録時の思い出や、当時話せなかった妄想!?まで、様々なお話を伺いました。
津村まことさん:『デジモンテイマーズ』松田啓人役。ほか代表作に『サザエさん』磯野ワカメ役、ゲーム『ラチェット&クランク』シリーズのラチェット役など。
関弘美さん:『デジモンアドベンチャー』から4作品に渡り、プロデューサーを担当。代表作に『おジャ魔女どれみ』シリーズなど。
デジモンパートナーズスタッフ:デジモン好き30代
3年ぶりの再会!
津村:お久しぶりです。
関:お久しぶりです。昔の「スタジオ タバック」があった場所で行った、Blu-ray BOXの特典ドラマCDの収録が、最後にお会いしたタイミングですよね。
津村:スタジオが変わったことを知らなかったので、驚きました。タバックで収録していた当時は、スタジオに幽霊がでるという話をよくしていました(笑)。
関:ありましたね~。第2スタジオというダビングしかしない部屋に、よく出没するという伝説を聞きました。
津村:そうなんですね。私は別のスタジオで、「この席によく座ってるよ」と聞いたことがあります。
関:霊感が強い声優さんが、そのような話を言い始めたんですよね。シナリオを書かれていた小中千昭さんが、怪談話がすごく好きな方でしたので、こんなお話こそ『デジモンテイマーズ』対談の導入には相応しいことかもしれません(笑)。
スタッフ:すごく「らしい」お話だと思いました。
オーディションで起こったハプニング
スタッフ:当時、そんな怪談話のあるスタジオタバックで収録されていた「デジモン」4作品ですが、津村さんは当時「デジモン」シリーズにどのような印象をお持ちでしたか?
津村:オーディションのお話をいただいてから「デジモン」のアニメについて調べたのですが、「今こんな作品が人気なんだ!」という強い印象受けました。
スタッフ:『デジモンテイマーズ』の概要を知ったときの印象を教えて下さい。
津村:自分の考えたものが実際に出現するって、とても憧れるシチュエーションですよね。なので「ギルモン」という存在は、すごく素敵だなと思いました。ストーリー展開は、台本を読みながら把握していきました。なので、「こう演じよう」と考えるよりかは、いただいた台本にしっかり向き合いながら演じていきました。
スタッフ:それではストーリーの全容は、最終回まで全て演じてから把握されたんですね。
津村:はい。ですが『テイマーズ』のストーリーは結構難しかったですよね。大人の頭で考えると「これはどうしてこうなるの?」と理屈っぽくなってしまうので、純粋に子どもの頭に切り替えて考え、受け止めていました。最後のほうは私もあまり理解できていないかも…(笑)。
関:大丈夫ですよ。私もプロデューサーとして十分に理解できたかと聞かれたら、「難しかった」という結論になりますから(笑)。やはり小中さんがSFなどへの造詣が深く、説明が難しかったので、シリーズディレクターの貝澤さんと一緒になってニュアンスを掴もうと精一杯でした。
津村:でも、純粋に面白かったです。改めて1話を見直しましたが、すごく良かった。今見ても古さを感じないですよね。今の子ども達にもぜひ観てもらいたいです。
関:小中さんから提案されて拍手喝采したのが、『デジモンアドベンチャー』や『02』と異なり、熱血型の主人公にしないということでした。等身大で、ノートに落書きしていそうな普通の小学生。今までの東映アニメーションのキャラ造詣とは違う形を目指したかったのですが、男の子の持っているデリケートさを表現できる声優さんは少なく、ピンとこなかったんです。そんな中のオーディションで、啓人のキャラクターの方向性に一番ピッタリだと小中さんと意見が一致したのが、津村さんでした。キャラクターをパターンに当てはめて演じる声優さんが多い中でどのジャンルにも染まっていない、男の子としてナチュラルな声をされていました。
津村:ありがとうございます。
関:私も小中さんも、1回目のオーディションから既に注目して審査を通過させていました。当時のオーディションはテープで管理していたのですがハプニングがあり、一次審査を通過した声を全て聞き直したときに、津村さんのテープがなかったんです! 当時の担当者の単純な手違いで、もれてしまっていたんです。急いでタバックに電話して、取り寄せました。
津村:それ聞いたことあります。当時、打ち上げのときに小中さんから!
関:それくらい津村さんの声が印象的だったんです。「あの声の芝居が入っていない!」って気がつくぐらいに。
津村:嬉しいです。
関:あの大騒ぎは一生忘れられない事件です。
スタッフ:選考にもドラマがあったんですね。
津村:合格したと聞いたときは、通年シリーズの主役は初めてだったので、「え!なんで私?」と驚きつつも、一方では「へぇ~」と客観的に考えていました。
野沢雅子さんがいるという安心感
スタッフ:津村さんは他の声優さんとご一緒していかがでしたか?
津村:キャストさんもスタッフさんも初めてお会いする方たちばかりでしたので、非常に緊張しました。やはりなんといっても、野沢雅子さんがいらっしゃいましたし。
関:そこですよね(笑)。わかります。
津村:緊張はしましたが、野沢さんがいらっしゃったおかげで、逆に伸び伸び演じられました。どっしり構えられているので、演技では甘えることができて。とても素敵な方で、ありがたい存在です。
関:大ベテランの方がアフレコ現場にいらっしゃると、他のメンバーは非常に安心されますよね。『デジモンアドベンチャー』のときは、藤田淑子さんがいたおかげで、場が生き生きとしていました。
スタッフ:野沢さんの存在は大きいんですね。起用された理由はそこにあるのでしょうか?
関:そうですね。『テイマーズ』のチームをまとめてくれる、あるいは引き締めてくださる方としてお願いしました。でも人間の声を演じるとイメージに引っ張られてしまうので、デジモンとして重要なポジションであるギルモンを演じていただくことになりました。
津村:野沢さんの場合はオーディションではないですよね。
関:はい、最初から役を決めて依頼しました。
スタッフ:初めての収録時はいかがでしたか?
津村:ただただ緊張していました。ギルモンは最後に少しだけの登場でしたので、野沢さんは後ろから見守ってくれていて。今観返すと生き生きと演じてられていたと思いました(笑)。
関:『テイマーズ』の第1話は、忘れられない1話です。収録スタジオが大久保にあったので、物語の舞台・新宿の近くにあるんですよね。なので、収録の帰りがけにすれ違う小学生が、まるで物語に登場してくる子どもたちのような感覚がありました。
津村:啓人は本当に普通の少年なんですよね。自分で言うのもなんですが、その弱さがあるところが、自分の声に合っていたのかなと思います。
啓人の成長は嬉しい反面寂しかった
スタッフ:『テイマーズ』は、そんな普通な啓人少年が成長していく物語ですが、その成長する姿は津村さんにもなにか影響を与えましたか?
津村:もちろん啓人みたいに私も成長しなきゃ、と思うこともありました。ですが戦って成長するにつれて、序盤の純粋でピュアな啓人が懐かしく、少し寂しい気持ちがありました。少年の成長を描いた作品ですが、演じている自分自身は物寂しかったです。親目線ですかね(笑)。
関:啓人が一番普通の少年で、アクションシーンが増えるにつれて、津村さんの発声の仕方や語気などが強くなっていくので、実は私も少し寂しかったんです(笑)。それは主役3人のバランスを考えていたからかもしれません。留姫とジェンは元々大人っぽくて、リアルな子どもに近かったのは啓人だけだったから。でも、物語終盤まで啓人らしさがきちんと残っていたので不思議に思っていたんです。なので、今聞いてわかりました。それは津村さん自身が「啓人の少年らしさ」をずっと考えていたからかもしれませんね。
スタッフ:ジェン役の山口眞弓さんや、留姫役の折笠富美子さんとご一緒に演じられていかがでしたか?
津村:すごく心強く、仲間たちがいてくれて本当によかったです。野沢さんの存在もすごく支えになりましたし、みなさんで作り上げた感触がありました。
母親目線!? な『テイマーズ』その後の妄想
スタッフ:20周年をむかえて、当時聞けなかったことなどはありますか?
関:先程も言ったとおり、啓人を演じる声優さんのイメージが全然浮かばなかったので、津村さんとの出会いは本当に目からウロコだったんです。なので当時から、津村さんは小学生から何歳ぐらいまで演じられるのかなとずっと考えていました。大学生までなのか、気弱なサラリーマンだったら演じられるのか、優しいお父さんもできるのかな、と。
津村:15歳ぐらいの男の子も演じたことはありますが、「男の子の感覚ってどうなんだろう?」とわからないことが多かったです。異性を演じるのは難しいですが、声の感じを考えなければ、機会があれば、役者としてはぜひ演じてみたいですよね。
関:あとは、小学生のころは気弱で優しいタイプの少年が、デジモンたちと別れてどのよう成長していくのか。例えば、放送から3年経ったときに、啓人はリアルだったら中学2年生だなとか、よく考えてしまうんですよ。
津村:啓人のその後ですね。
関:中学生になって、他の男の子が樹莉ちゃんをデートに誘ったことを啓人が知り、「なんて僕は情けないんだ」とか考えるんだろうな、とか妄想しちゃうんですよね。
津村:私も考えちゃいます! でも、結局樹莉ちゃんとはうまくいかないんじゃないかな、とか(笑)。全く違うタイプの女の子と付き合ってたりするのかな、とか。
関:妄想するだけでも楽しいですよね。
スタッフ:横からすいません(笑)。小中さんが他のインタビューで、『テイマーズ』は啓人と樹莉のラブストーリーだとおっしゃっていました。
津村:えぇ! そうなんですか!? でも、確かにそうですね。
スタッフ: 当時、演じられる際の意識はありましたか?
津村:もちろん、好きな女の子のために一生懸命戦っているという意識はありました。啓人と樹莉は、お互いに好意を抱いているような関係性だとは、思っていました。
関:小中さんは啓人と樹莉の恋愛物として描いているかもしれません。でも津村さんとの話の中で私の妄想が強まったのは、確かに樹莉を想って戦っていたかもしれませんが、啓人が選ぶ女性は樹莉じゃない…、厳密に言うと、樹莉が選ぶ男性は啓人じゃない気がします。
津村:あぁ(笑)。
関:あくまでも妄想ですよ(笑)。じゃあ、樹莉はどんな男性を選ぶのかとか、啓人は樹莉への想いを中学高校生まで引っ張るのかとか…。こんなことは小中さんの前では話せなかったので、今日津村さんとお話できて嬉しいです(笑)。当時の中年の女性の目線でキャラクター同士の関係性を見た時に、やはり考えてしまうことはあるんですよね。
津村:樹莉ちゃんとはうまくいかないかな、って(笑)。
スタッフ:先程言っていた母親目線が入ってくるんですね。
津村:樹莉ちゃんはしっかり者じゃないですか。本質を知っていれば、すごく良い子だとわかるんです。この子とくっついてもらえば、啓人は安心だなと思うんですが、ただ…。
関:そう、「ただ」ね(笑)。2人が大人になったときに、関係値がまた変わってきちゃうんじゃないかな。もちろん当時のストーリー作りでは、小中さんの考えを大事にしていますので、このようなお話はしませんでしたよ。
スタッフ:Blu-rayの特典で付いてきたドラマCDでは、その後のお話が描かれていました。
津村:大人になった啓人は天の声で少ししか登場しなかったので、もっと実体を感じたかったです。まだ内容は知らされていませんが、「デジフェス」で予定されている朗読劇で活躍するかどうか、楽しみです。私の中で人物像がまだ見えていないので、人間味を感じられるシナリオだと嬉しいです。
大人になってもう一度観直してもらいたい作品
スタッフ:お二人にとって、『デジモンテイマーズ』はどのような作品でしょうか?
津村:本当に大切で好きな作品です。みなさんに愛され続けていることがとても嬉しいです。
関:『デジモンテイマーズ』は、ちょうど『おジャ魔女どれみ』の3作品目と同時に進行していました。『おジャ魔女どれみ』では帰国子女を、『テイマーズ』ではハーフのジェン君を登場させました。異文化で育った人物を出すことが私の中でブームだったのですが、それを小中さんが上手に料理してくださいました。また美術デザインの渡辺佳人さんや荒牧伸志さんなど、今まで出会ったことの無い才能の方々とご一緒することもあり、3年目にしてとても新鮮だったんです。私が関わった「デジモン」4作品の中でとても毛色の違う1本で、世界観も深く掘り下げるのが楽しい作品でした。
津村:当時観て下さっていた方々は、啓人とともに成長したら30代でしょうか。30代になって見直されたら、どのような感想をいだくのか伺ってみたいです。一緒に作り上げてきたスタッフの気持ちが皆さんに届いて、ここまで愛される作品になったと思うので、ありがたい限りです。関わらせて頂いたことにも、本当に感謝しています。
関:観ていた思い出を多くの方と共有していただき、コミュニケーションのきっかけになる作品だったら嬉しいです。深い読み方、見方ができる作品だと思いますので、大人になった目線でもう一度観直してみてください。
津村:今年は「デジフェス2021」で、皆さんとどのように交流できるのか、今から楽しみです。朗読劇もがんばります!
スタッフ:ありがとうございました!